リテールテクノロジー | 執筆:Nick East(NCR Voyix 最高製品責任者) | 2026年8月31日
クラウドで実行すべきものと、店舗で実行すべきものは何か。それぞれのワークロードを、その特性に最適な環境に割り当てる必要があります。リアルタイム性が求められる業務はエッジの領域です。具体的には、POS取引、不正検知、映像認識、店舗内プロモーションなどが挙げられます。これらはローカルで処理されるため、ネットワーク接続が途切れても業務を継続できます。一方、オフラインでのデータ分析、AIモデルのトレーニング、ビッグデータ処理、eコマースなどはクラウドを活用すべきです。つまり、答えは「クラウド中心」か「エッジ中心」かという二者択一ではありません。両者を統合したハイブリッドアーキテクチャこそが正解なのです。
重要なポイント
- POS、決済、映像AI、キッチンシステムなどのリアルタイムな店舗ワークロードは、エッジで処理すべきです。分散した店舗環境では、レイテンシや接続障害により、クラウドのみの処理では信頼性が確保できないためです。
- クラウドインフラは、オフライン分析、AI/MLモデルのトレーニング、ビッグデータ処理、eコマースに最適です。これらの業務には、迅速なローカル応答ではなく、集中したコンピューティングパワーが必要となります。
- クラウドPOSは、実質的にはハイブリッドなソリューションです。接続が途切れても動作し続けるためには、エッジ対応が不可欠であり、それがエッジコンピューティングの最大の活用事例の一つとなっています。
- 小売業者は、クラウドインフラをエッジに転用することを避けるべきです。エッジには、接続環境が不安定な数万もの拠点で24時間365日稼働することを前提とした、専用のツールが必要です。
データ量は増大し、店舗の接続環境も向上しています。成功の鍵は、適切なワークロードを適切な場所に配置することです。クラウドとエッジのハイブリッドアプローチにより、店舗でのリアルタイム処理が可能になると同時に、一元化された分析を通じて長期的な価値を生み出すことができます。
小売業界におけるエッジコンピューティングは急速に拡大しています。店舗内のデバイス接続数は増え、それらが生成するデータに依存するアプリケーションも増加しています。クラウドや企業データセンターの役割も明確です。それらは取引を処理し、データから洞察を提供します。小売企業のIT部門は、これまで全体的なクラウド戦略に多くの時間を費やしてきました。
現在、彼らの関心はエッジへと向いています。店舗では取引データだけでなく、在庫、センサー、収容人数、映像、パフォーマンスデータなど、膨大な量のデータが生成されています。このシフトは、すでに食料品小売のIT優先順位を塗り替えています。米国の食料品小売ITリーダーの約70%が、今後1〜5年以内に店舗内ソフトウェアの大部分がコンテナ化されたクラウドネイティブなマイクロサービスとして実行されると予測しています。欧州でも57%が同様の回答をしています。これは、NCR VoyixがCensuswideと共同で実施した調査によるものです。
店舗インフラは顧客体験を直接左右するものであり、もはやバックエンドだけの問題ではありません。これは課題であると同時にチャンスでもあります。エッジシステムとそこで生成されるデータをどのように最適化し、それをいかに競争優位性へと変えていくべきでしょうか。
エッジテクノロジーとは、クラウドや企業データセンターの外側で動作するシステム群を指します。これは、より広範なリテールアーキテクチャの一部です。そのアーキテクチャには、パブリッククラウド、SaaSソリューション、eコマーススタック、配送センター、そして自社所有またはリースされたデータセンターが含まれます。これらすべてが「店舗外」で運用され、ネットワークを通じて最前線のシステムへとつながっています。
小売業において、エッジ戦略を欠いたクラウド戦略は不完全です。最悪の場合、期待した成果を得ることはできないでしょう。
多くの小売業者は、エッジテクノロジーこそが店舗インフラを近代化する最善の方法だと考えています。小売業の成功にはクラウドとエッジの融合が必要であるという点では意見が一致していますが、アプローチとして「クラウド中心」と「エッジ中心」のどちらをとるべきでしょうか。
その判断をサポートします。
小売業においてクラウドとエッジがそれぞれ異なる役割を果たす理由
クラウドはアプリケーションの実行方法を変革し、イノベーションの障壁を取り払いました。その原動力となったのは、仮想化とコンテナ技術、ブロードバンドの向上、そしてGoogle、Microsoft、Amazonといったハイパースケーラーによる巨額の投資です。しかし、どのようなツールにも言えることですが、クラウドにも適した用途とそうでない用途があります。
エッジは、クラウドインフラでは対応できない環境のために構築されています。データセンターとは異なり、エッジインフラは不安定なネットワーク環境を管理しなければなりません。特に店舗が広範囲に分散している場合、レイテンシ、ジッター、可用性の問題は日常茶飯事です。店舗のシステムは、人の出入りがなく、高度なセキュリティと空調が完備されたサーバー室に設置されていることは稀であり、むしろその逆の環境にあります。
エッジシステムが担う役割は多岐にわたります。膨大な決済データの処理と制御、計量器やキッチンシステムの運用、AI/MLを活用したリアルタイムのカメラ映像解析などです。何よりも、24時間365日稼働することが多い店舗において、ピーク時にも高いパフォーマンスを維持しなければなりません。
クラウド向けに構築されたインフラは、エッジには適していません。その逆もまた然りです。クラウドシステムは通常、限られた数の大規模で汎用的な拠点で運用されます。これは「クラウドスケールでの運用」と呼ばれます。一方、エッジシステムは異なります。接続環境が不安定なことも多い、数万もの小規模な拠点で運用されます。これが「エッジスケールでの運用」です。
どちらも高いレベルでスケーラビリティと自動化を必要としますが、その本質は異なります。一方は高度に集約されており、もう一方は高度に分散されています。小売業で成功を収めるには、両方の環境で継続的に動作するシステムを設計することが不可欠です。この両者を活用することこそが、統合コマースの基盤となります。これにより、あらゆる店舗やチャネルを通じて、一貫したリアルタイムの顧客体験を提供できるようになります。
リアルタイムの小売業務におけるクラウドとエッジの連携
小売業にはリアルタイム処理が不可欠です。無人店舗での画像認識、万引き防止、商品スキャン、あるいは最新のパーソナライズされた店内オファーなどがその例です。レイテンシや高い帯域幅コストは摩擦を生み、顧客体験と収益の両方を損ないます。エッジシステムはこうしたデータをリアルタイムで処理しますが、長期間にわたる分析にはクラウドの強力なオフラインコンピューティング能力が必要です。
意思決定のヒューリスティック:「店舗にはエッジイン(Edge In)」、「店舗外にはクラウドアウト(Cloud Out)」
分散した店舗網には多くの可動要素があるため、エッジインフラには応答性、拡張性、信頼性が求められます。店舗には「エッジイン」のアプローチが最適です。一方、本社や店舗外のデータセンター、eコマースなどのシステムはクラウドの特性に近いため、「クラウドアウト」戦略が適しています。
クラウドかエッジかという二者択一ではない理由
現実を見据える必要があります。まずはエッジで店舗向けの設計を行い、その上でクラウドを最大限に活用するのです。クラウドはオフラインでのデータ分析、学習モデルの構築、ビッグデータ処理、eコマースなどに最適です。クラウドは設計の中心にありますが、それ単体で完結するものではありません。
例えば、店内の買い物客にリアルタイムでプロモーションを配信したい場合、アプリケーションをエッジでホストして即座に応答させます。その一方で、AIアルゴリズムの学習はクラウドで行い、モデルの更新をエッジにプッシュ配信します。
また、「クラウド」という言葉の定義を明確にする必要があります。クラウドPOSを例に挙げましょう。POSはエッジコンピューティングの最大のユースケースの一つであり、数百万件もの取引を処理します。しかし、スイッチ、ルーター、ネットワーク、クラウドプロバイダーなど、障害が発生する可能性のある箇所は無数にあります。POSをインターネット経由でクラウドに接続するWebブラウザのような純粋なクラウドアプリケーションだと仮定すると、接続が切れた瞬間に店舗のPOSは機能しなくなります。そのため、クラウドPOSはエッジ対応である必要があり、結果としてクラウドとエッジの両方の性質を持つハイブリッドなものとなります。
ハイブリッドアプローチが業務を簡素化し、コストを削減する仕組み
クラウドアウトとエッジインは、互いに排他的なものではありません。両者の利点を最大限に引き出すには、全体的なアプローチが必要です。そうして初めて、コスト効率を最大化できます。その機会は非常に大きいものです。NCR VoyixがCensuswideと共同で行った調査によると、米国の食料品小売業者の93%が、小売エッジ戦略を完全に実装できていないと回答しています。欧州ではその割合は85%に達します。これは、効率化の余地がまだ大きく残されていることを意味します。
なぜすべてのデータを24時間365日クラウドにストリーミングする必要があるのでしょうか。ゲートウェイ機能を使えば、どのデータをクラウドに送り、どのデータをエッジに残すかを選択できます。ハイブリッドアプローチは、業務をシンプルにします。
エッジインフラをクラウドから転用できない理由
エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングと競合するものではありません。両者は互いに補完し合い、完成させる関係にあります。店舗において、エッジはある意味で分散型クラウドに過ぎませんが、それはクラウドとは全く異なる種類のものです。
クラウドコンピューティングは、従量課金制で効率的なリソースと集中型アプリケーションを提供してきました。ハイパースケーラーは現在、自社の技術のうち最も重要な部分をデータセンターから切り出し、他のクラウドやデータセンターへ展開する方法を模索しています。
しかし、クラウドからエッジへ転用されたインフラには注意が必要です。巨大な原子力発電所を建設したチームに、沖合数百マイルに浮かぶ数千基の風力タービンにも同じアプローチをとるよう求めることはないでしょう。エッジには、その役割のために設計されたツールが必要なのです。
エッジは、レガシーインフラを統合し、効率性を高める絶好の機会です。また、データ量の多い低遅延なユースケースを実現し、顧客体験を向上させる可能性も秘めています。重要なのは、クラウドとエッジを統合することです。これを実現すれば、長い開発サイクルを必要とせず、アプリケーションを最適な場所に展開・管理できるようになります。さらに、アーキテクチャ全体で一貫したポリシーと構成を維持することも可能です。
技術的な課題ではなく、ビジネスの成果に焦点を当てる
小売業者が移行を進める際、注力すべきは特定の技術課題の解決ではなく、ビジネス上のメリットです。このアプローチにより、具体的なサービスレベルアグリーメント(SLA)に基づいた成果を定量化できます。財務的な効果は測定可能です。NCR Voyixの委託によりForrester Consultingが実施した「Total Economic Impact」調査では、Voyix Edgeの導入により、164%の投資収益率(ROI)、6〜18ヶ月の投資回収期間、計画外ダウンタイムの50%削減、店舗のパフォーマンスと効率の10%向上という強力な成果が示されました。こうした成果こそが、成果ベースのSLAに信頼性をもたらすのです。
つまり、「クラウド・アウト」か「エッジ・イン」かという二者択一ではありません。両者をどのように組み合わせ、店舗運営を最大化し、成功へと導くかが重要です。これらのベストプラクティスに従い、適切なパートナーと協力することで、貴社のビジネスに最適な答えが見つかるはずです。
小売業者は、デジタルチャネルで実現しているのと同じ俊敏性を店舗でも求めています。エッジは、その実現を支援する重要なテクノロジーです。
Nick EastはNCR Voyixの最高製品責任者(CPO)として、小売およびレストラン向けテクノロジーポートフォリオ全体の製品戦略を統括しています。ソフトウェア革新を25年以上牽引してきた同氏は、2019年にNCR Voyixが買収した小売エッジ向けソフトウェアの先駆的企業であるZynstraの共同創業者兼CEOを務めました。買収後は、同社のエッジ対応コマースプラットフォームの開発において中心的な役割を担っています。
よくある質問
小売におけるクラウドスケールとエッジスケールの違いは何ですか?
クラウドスケールとは、集中したコンピューティング能力を持つ、大規模で汎用的なデータセンターを少数運用することを指します。一方、エッジスケールとは、接続環境が不安定なことも多い数万もの小規模な店舗拠点で、分散処理を行うことを指します。どちらもスケーラビリティと自動化が必要です。違いは単純で、クラウドは高度に集中化されており、エッジは高度に分散化されているという点です。
なぜクラウドPOSには店舗でのエッジコンピューティングが必要なのですか?
POSをインターネット経由でクラウドに接続するWebブラウザのような純粋なクラウドアプリケーションだと想像してください。もし接続が切断されれば、店舗でPOSは機能しなくなります。クラウドPOSは、ネットワーク障害時でもローカルで取引処理を継続できるよう、エッジ対応である必要があります。つまり、クラウドとエッジの両方を備えたハイブリッドな構成が求められるのです。
小売業者は店舗のエッジコンピューティングにクラウドインフラを転用できますか?
基本的にはできません。クラウド向けに構築されたインフラは、エッジには不向きです。エッジ環境は、不安定なネットワーク、制御不能な物理的条件、そして数千の拠点での24時間365日のリアルタイム処理という課題に直面しています。この分散環境には、エッジネイティブな専用インフラを使用してください。クラウド用のツールを無理に店舗へ導入すべきではありません。
適切なテクノロジーは、買い物客の期待に合わせてビジネスを前進させる助けとなります。しかし、さらなる高みを目指すには、シームレスな体験が不可欠です。詳細については、 体験主導型リテールによる店舗変革に関する記事をご覧ください。
出典
- NCR VoyixがCensuswideと共同で実施した調査「Grocery Store IT: The Edge Revolution」。米国および欧州の食料品小売業におけるIT意思決定者を対象に実施。コンテナ化されたマイクロサービスの採用率(米国70% / 欧州57%)および小売エッジ計画の準備状況(米国93% / 欧州85%)の数値の根拠として引用。 記事を読む
- 2. Forrester ConsultingがNCRの委託を受けて実施した調査「The Total Economic Impact of NCR Software Defined Store (現Voyix Edge)」より。164%の投資収益率(ROI)、6〜18ヶ月での投資回収、計画外ダウンタイムの50%削減、店舗のパフォーマンスと効率の10%向上を達成したと報告されています。 Forresterレポートを読む
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